トヨタ自動車の新人事制度にみる固定残業(裁量労働)制(その①)
トヨタ自動車が新人事制度を導入
トヨタ自動車は、12月より入社10年目以降の社員を対象に、実際の残業時間に関係なく、毎月17万円を残業手当として一律に支給する制度を導入するとの報道がありました。
この17万円という手当額は、主任職の平均時間外手当45時間分にあたり、残業を少なくすればするほどメリットがあると、働き方改革の一環として導入したようです。尚、45時間を超えた場合は、残業手当は上乗せされるとのことです。
マスコミは裁量労働時間制の拡大と報道していますが、まずはその裁量労働時間制について解説していきたいと思います。
裁量労働時間制とは
最良動労時間制とは、業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる一定の業務に従事する労働者について、実際の勤務時間と関係なく、あらかじめ決められた時間を働いたとみなし、労働時間を計算して給与を支払う仕組みです。現在では「専門業務型」と「企画業務型」の2種類が認められています。
<専門業務型>
業務の性質上その遂行を労働者の大幅な裁量に委ねる必要性があり、且つ業務遂行の手段・時間配分の具体的指示が困難な一定の専門的業務に適用されるものです。
(労働基準法38条の3)
第三十八条の三 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、労働者を第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第二号に掲げる時間労働したものとみなす。
一 業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この条において「対象業務」という。)
二 対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間
三 対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと。
四 対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。
五 対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。
六 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
専門的業務は、以下の対象業務に限定されています。
また、この制度を実施するには、就業規則の変更は勿論のこと、過半数の労働者を組織する労働組合若しくは労働者の過半数を代表する者と以下の内容を定めた労使協定を締結し、労働基準監督署に届出る必要があります。
<労使協定に定める事項>
・対象業務
・労働時間として算定されるみなし労働時間
・従事する労働者に対し、業務の遂行の手段及び時間配分の決定について使用者が具体的な指示をしないこと
・健康福祉の確保措置
・苦情の処理措置
・労使協定の有効期間
・労働者ごとの健康福祉措置・苦情処理措置の記録を上記有効期間満了後3年間保存すること
<企画業務型>
企業の中枢部門において企画・立案・調査・分析の業務を自律的に行っているホワイトカラー労働者を対象に、みなし制による労働時間の計算を認めるものです。
仕事の質や成果により処遇することが妥当な場合があることから、1998年法改正により新設されたものですが、制度の濫用を避けるため、専門業務型に比べて導入の要件は厳格になっています。
(労働基準法38条の4)
第三十八条の四 賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第三号に掲げる時間労働したものとみなす。
一 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であつて、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務(以下この条において「対象業務」という。)
二 対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であつて、当該対象業務に就かせたときは当該決議で定める時間労働したものとみなされることとなるものの範囲
三 対象業務に従事する前号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間として算定される時間
四 対象業務に従事する第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
五 対象業務に従事する第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
六 使用者は、この項の規定により第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を対象業務に就かせたときは第三号に掲げる時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
七 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
(2) 前項の委員会は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 当該委員会の委員の半数については、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者に厚生労働省令で定めるところにより任期を定めて指名されていること。
二 当該委員会の議事について、厚生労働省令で定めるところにより、議事録が作成され、かつ、保存されるとともに、当該事業場の労働者に対する周知が図られていること。
三 前二号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める要件
(3) 厚生労働大臣は、対象業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るために、労働政策審議会の意見を聴いて、第一項各号に掲げる事項その他同項の委員会が決議する事項について指針を定め、これを公表するものとする。
(4) 第一項の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、定期的に、同項第四号に規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない。
(5)<省略>
この制度を実施するには、専門業務型同様就業規則の変更は勿論のこと、労使委員会を設置し、以下事項を委員の4/5以上の多数決で決議のうえ労働基準監督署長へ届出て、且つ対象労働者の同意が必要となります。また、制度導入後は、労働基準監督署長へ定期報告を6ヶ月以内に1回行なうことも求められます。
尚、労使委員会の委員の半数は、過半数の労働者を組織する労働組合若しくは労働者の過半数を代表する者が指名する委員とすることとされています。
<労使委員会必要決議事項>
・対象労働者の範囲
・1日あたりのみなし労働時間数
・健康・福祉確保の措置
・苦情処理の措置
・労働者の同意が必要な旨及びその手続、不同意労働者への不利益な取扱い禁止
トヨタが導入した制度は、裁量労働時間制なのか?
マスコミは、今回トヨタが12月より導入する制度について「裁量労働の実質拡大」と一斉に報じましたが、実際はどうなのでしょうか?
今回の制度は、事務職や技術職の係長クラス約7,800人を対象とし、月45時間を超えた場合はその超過分を残業手当として支払うとしています。
トヨタは既に専門業務型・企画業務型2つの裁量労働制を導入しており、約1,800名弱が対象となっています。それを受けてのマスコミ報道だと思われますが、実は今回の制度は「固定残業代制」であり、法律上の裁量労働時間制ではないのです。
これはトヨタ広報も認めているとのことで、企画業務型裁量労働制の拡大なども盛り込んだ、労働基準法の改正を政府が目指しているなか、ミスリードを招きかねない表現となってしまっているのは、非常に残念なことです。
ではその固定残業代制、その他制度についてみていきたいと思いますが、それはまた次回としたいと思います。