判例にみる長時間労働
繰り返される電通事件
世を騒がせた電通違法残業事件、先日9月22日に東京地裁で初公判が開かれ、山本社長が全面的に非を認め、求刑通り50万円の罰金で即日結審されました。
2015年12月に高橋まつりさんが長時間労働の末過労自殺してから1年半ちょっとでの決着。早いとみるか否かは様々な意見があると思いますが、今回公判が開かれたことは、司法として世に対し非常に重要な判断を示しました。
25年前の電通事件
実は電通は、25年前にも同じような過労死事件を起こし、最高裁まで争っている。以下その判例概要です。
電通事件(最高裁判所第二小法廷 平成10年(オ)217号、218号)要旨:
新入社員のAさん(男性・24歳)が、慢性的な長時間労働によりうつ病にり患し自殺した事件。長時間労働とうつ病発症との間に相当の因果関係を認め、使用者の民法七一五条に基づく損害賠償責任が認められた事例。判決では二審の損害額の減額判断を破棄し東京高裁へ差戻し(裁判のやり直しを命じること)とされ、その後の差戻審において、最終的に会社が約1億6,800万円を支払う内容の和解が成立した。
裁判の争点は以下3点。
(1)業務と自殺との間に因果関係が認められるか
判例では(1)は長時間労働→うつ病発症→自殺の一連の因果関係が認められ、(2)も会社の注意義務違反が認められ、(3)については、通常想定される範囲を外れるものでない限り、本人の性格や家族の落ち度等を減額事由として一切斟酌してはならないと、過失相殺を否定しました。
ここで注目したいのが、(2)の会社の義務違反です。
企業に求められる安全配慮義務
安全配慮義務とは、従業員が安全・健康に働くことができるよう、会社が配慮すべき義務です。これに違反した場合、会社は損害賠償の責を負うことになります。
安全配慮義務は、以前は法律上明文化されておらず、判例の下に認められてきたものでしたが、2008年3月施行の労働契約法により、従業員の安全への配慮が法律上に明記されました。
労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
なお、上記の条文の「生命、身体等の安全」には、厚生労働省の通達により、心(精神的な)の健康も含まれるとされています。
この安全配慮義務は、以下のような判例の積み重ねのうえに形成されてきました。
川崎市水道局いじめ事件(東京高裁 H15.3.25)
職場での陰口や卑猥な言葉などのいじめが原因で統合失調症を発症し自殺(損害賠償1,062万円)
JFEシステムズ事件(東京地裁 H.20.12.8)
毎月100時間を超える過度な長時間労働に加え、頻発するシステム不具合対応による過度の精神的負担によりうつ病発症し自殺(損害賠償7,900万円)
日本海庄や過労死事件(大阪高裁 H23.5.25)
新入社員が過度な長時間労働により急性心不全で過労死。19万円程度の初任給に80時間の残業代が含まれていた事例(損害賠償7,860万円)
安全配慮義務を怠れば、大事な社員を失ない、且つ莫大な損害賠償や企業のイメージダウンなどの様々なリスクが発生し、存続問題にも発展しかねないその社会的損失は計り知れません。
そんな事態にならないためにも、コンプライアンス、リスク管理の再確認が必要です。