トヨタ自動車の新人事制度にみる固定残業(裁量労働)制(その②)

トヨタ自動車の新人事制度にみる固定残業(裁量労働)制(その②)

固定残業制とその類似制度

前回は、トヨタ自動車が12月より導入予定の制度に絡めて、裁量労働制についてみてきました。

<前回記事>

https://keieiromu.jp/jinji/jinji_romu_blog/17-1023/

今回は、固定残業制について触れていきたいと思います。

固定残業制度とは

今回トヨタ自動車が導入しようとしている制度は、実際の残業時間に関係なく毎月17万円を残業手当として一律に支給するというものです。また、45時間を超えた部分は追加支給されます。

このように、実際の残業時間に関係なく一律に残業手当を支払い、固定残業分を超えた部分について追加で支払う制度を、固定残業制度といいます。

似たような制度で、みなし労働時間制というものがありますが、これは固定残業制度とは全く似て非なるもので、裁量労働時間制同様、対象者や運用方法等が法律で制限されています。

折角ですので、そのみなし労働時間制についてもみていきたいとおもいます。

みなし労働時間制

みなし労働時間制とは、事業場外でなされる業務で、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難な場合に、労働時間をみなし制により算定することができる制度です。

出張や外回りの営業への適用を想定し、労働基準法で定められている制度です。

(労働基準法第38条の2)

第三十八条の二 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

(2) 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。

(3) 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。

労働時間の算定は、原則所定労働時間となりますが、労働者の過半数組合、または過半数代表者との労使協定により、所定労働時間を超える「通常必要な」時間を定め、労働基準監督署に届出た場合、その必要な時間でみなしが行われます。

また、労働時間を算定しがたい点について「使用者の具体的な指揮監督や時間管理が及ばない」ことが要件とされており、携帯での業務指示ができる場合はその対象とならなかったり、更には、事業場外と事業場内の両方の勤務がある場合、「事業場外の勤務のみ」みなし適用されることとされている等、運用にあたって色々留意が必要です。

(昭63.1.1基発1号)

3 労働時間の算定

(1) 事業場外労働に関するみなし労働時間制

イ 趣旨

事業場外で労働する場合で、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難な業務が増加していることに対応して、当該業務における労働時間の算定が適切に行われるように法制度を整備したものであること。

ロ 事業場外労働の範囲

事業場外労働に関するみなし労働時間制の対象となるのは、事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な業務であること。したがって、次の場合のように、事業場外で業務に従事する場合であっても、使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はないものであること。

[1] 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合

[2] 事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合

[3] 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場にもどる場合

ハ 事業場外労働における労働時間の算定方法

(イ) 原則

労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなされ、労働時間の一部について事業場内で業務に従事した場合には、当該事業場内の労働時間を含めて、所定労働時間労働したものとみなされるものであること。

(ロ) 当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合

当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなされ、労働時間の一部について事業場内で業務に従事した場合には、当該事業場内の労働時間と事業場外で従事した業務の遂行に必要とされる時間とを加えた時間労働したものとみなされるものであること。なお、当該業務の遂行に通常必要とされる時間とは、通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間であること。

(ハ) 労使協定が締結された場合

(ロ)の当該業務の遂行に通常必要とされる時間については、業務の実態が最もよくわかっている労使間で、その実態を踏まえて協議した上で決めることが適当であるので、労使協定で労働時間を定めた場合には、当該時間を、当該業務の遂行に通常必要とされる時間とすることとしたものであること。

また、当該業務の遂行に通常必要とされる時間は、一般的に、時とともに変化することが考えられるものであり、一定の期間ごとに協定内容を見直すことが適当であるので、当該協定には、有効期間の定めをすることとしたものであること。

なお、突発的に生ずるものは別として、常態として行われている事業場外労働であって労働時間の算定が困難な場合には、できる限り労使協定を結ぶよう十分指導すること。

ニ みなし労働時間制の適用範囲

みなし労働時間制に関する規定は、法第四章の労働時間に関する規定の範囲に係る労働時間の算定について適用されるものであり、第六章の年少者及び第六章の二の女子の労働時間に関する規定に係る労働時間の算定については適用されないものであること。

また、みなし労働時間制に関する規定が適用される場合であっても、休憩、深夜業、休日に関する規定の適用は排除されないものであること。

ホ 労使協定の届出

事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定は、規則様式第一二号により所轄労働基準監督署長に届け出なければならないものであること。ただし、協定で定める時間が法定労働時間以下である場合には、届け出る必要がないものであること。

なお、事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定の内容を規則様式第九号の二により法第三六条の規定による届出に付記して届け出ることもできるものであること。

労使協定の届出の受理に当たっては、協定内容をチェックし、必要に応じて的確に指導すること。

また、事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定の締結に当たっては、事業場外労働のみなし労働時間制の対象労働者の意見を聴く機会が確保されることが望ましいことはいうまでもなく、その旨十分周知すること。

固定残業制の残業手当

前述の通り、トヨタの今回の制度は、毎月17万円を残業手当として一律に支給し、45時間を超えた場合、その部分を追加支給するというものです。

そもそも、残業手当の計算方法は、どのように計算すればいいのでしょうか?

残業手当の計算方法

残業手当の割増率は、労働基準法で以下のように定められています。

時間外手当(月60時間まで) … 通常の労働時間の賃金の2割5分増以上

時間外手当(月60時間超)  … 通常の労働時間の賃金の5割増以上

休日出勤手当        … 通常の労働時間の賃金の3割5分増以上

深夜勤務手当        … 通常の労働時間の賃金の2割5分増以上

 

(労働基準法第37条)

第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

(2) (省略)

(3) (省略)

(4) 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

(5) 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

 

(平6.1.4政令第5号 割増賃金令)

内閣は、労働基準法 (昭和二十二年法律第四十九号)第三十七条第一項 の規定に基づき、この政令を制定する。

労働基準法第三十七条第一項 の政令で定める率は、同法第三十三条 又は第三十六条第一項 の規定により延長した労働時間の労働については二割五分とし、これらの規定により労働させた休日の労働については三割五分とする。

 

トヨタのケース

今回のトヨタのケースで考えてみます。まず、要件を整理すると、以下の通りとなります。

対象者:事務や研究開発の係長(主任)クラスの総合職(約7,800人)

手当額:一律17万円

手当が追加支給となる基準時間:45時間/月

上記より残業手当の基礎となる時間単価を算出すると「3,022円/h」、これを更に月給換算すると、約46万円となります。(年間休日120日、1日所定7.5hの場合)

固定残業制だからといって、労働基準法に定められた割増賃金の支払いが免除されるという訳ではありません。万が一法定通り割増賃金を計算して超過していた場合、トヨタには一律の手当額45万円との差額の支払い義務が生じることになります。例えば、月給55万円の人が月43時間残業した場合などが、そのケースに該当します。

天下のトヨタなので、前述のような主任クラスで月給46万円以上の方もいるかもしれませんが、一般的んはかなり月給としては高額なため、トヨタとしても、ほぼ超える対象者はいないという想定ではないかとも思われます。

何れにしても、労働基準法改正も予定されるなかでの、働き方改革にも絡んだ注目の事例となります。導入後の効果等含め、ひき続き注目していきたい案件だと思います。