厚生労働省が副業・兼業に関するモデル就業規則改定案を提示
厚生労働省のモデル就業規則
厚生労働省の労働基準局に設置されている柔軟な働き方に関する検討会が2017年11月20日に開催され、「モデル就業規則の改定の方向性」として、現在公表している「モデル就業規則」のうち、副業・兼業に関する規程の改定案を提示しました。
< 厚生労働省「モデル就業規則改定の方向性」>
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000185350.pdf
<副業・兼業の推進に関するガイドライン骨子(案)>
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000185349.pdf
厚生労働省が公表しているモデル就業規則は、企業の就業規則の参考資料として、解説と併せて規程例を示しているものです。今回このモデル就業規則を、副業・兼業を認める方向で改定することが検討されています。当然、法的拘束力はないものの、今後各社での規程見直し等に一定の影響を及ぼすことが想定されます。
厚生労働省は、平成29年度中に策定を予定している副業・兼業に関するガイドラインと併せて、改定版のモデル就業規則を公表する予定としています。
なぜ今副業・兼業なのか?
人事労務で今一番のテーマともいえる働き方改革の一環として、注目を集めているのが副業・兼業です。なぜ副業・兼業が注目を集めているのでしょうか?
副業とは
「副業」とは本業以外にも仕事をし、収入を得ることをいいます。サイドビジネス、兼業などと呼び方はさまざまですが、就労形態もかなり多岐にわたります。パート、アルバイト、内職、業務委託などが代表的なものとして挙げられます。
副業・兼業の効果としては、社会的には有能な人材を幅広い分野で活用でき、本人にとっては複数の収入源を確保できると同時に、様々な仕事を経験することで従業員の成長に繋がり、企業にとってもその経験を本業へ生かしてもらえるなどのメリットがあると言われています。
では、副業・兼業はメリットしかないのかというと、そうとも言えません。
副業のデメリット
副業は以下のデメリットがあるとして、多くの企業が認めてきませんでした。
<副業のデメリット>
・本業への悪影響がある
・副業が本業と競業関係にあり、企業利益の毀損や技術・機密情報漏えいリスクがある
・副業の内容によって、本業企業の信頼を損なうことがある
・過重労働のリスクがある
先ほどの厚生労働省のモデル就業規則で副業禁止規定を入れていたのも、そのような理由があったからです。実際、東京商工会議所が発表した「東商けいきょう集計結果(中小企業の景況感に関する調査)2016年10-12月期」によると、兼業・副業を「現在・将来共に認めない」割合は43.0%と、非常に大きな数字になっています。
一方で、副業・兼業に積極的な企業も半数近くあるなど、企業も揺れ動いている現状がみてとれます。
副業・兼業の留意点あれこれ
では、副業・兼業に関する、人事労務上の留意点について、いくつか取り上げていきたいと思います。
副業禁止規定の有効性
就業規則に副業禁止規定があるなかで、会社に無断で副業した場合は懲戒事由に該当してきます。その懲戒処分の有効性を争った裁判では、有効とするものと無効とするものとで、判断が大きく別れている。
<懲戒処分を有効とする判例>
橋元運輸事件 名古屋地判昭47.4.28
ナショナルシューズ事件 東京地判平2.3.23
昭和室内装置事件 福岡地判昭47.10.20
ジャムコ立川工場事件 東京地八王子支判平17.3.16
小川建設事件 東京地決昭57.11.19
<懲戒処分を無効とする判例>
十和田運輸事件 東京地判平13.6.5
都タクシー事件 広島地決昭59.12.18
国際タクシー事件 福岡地判昭和59.1.20
定森紙業事件 大阪地決平成元.6.28
上記裁判例をまとめると、以下の通りとなります。
・就業規則によって二重就職を使用者の許可制とすることについては合理性が認められるが、その違反に対して直ちに懲戒処分を課すことができるわけではない。
・判例では、就業規則の包括的な二重就職規制の規定を合理的内容に限定解釈することで、労働者の私生活の自由とのバランスをとっている。
・本業の労務提供や事業運営に支障が生じるようなものや、本業会社の社会的信用を損なうおそれのあるものなど、実質的に企業秩序を乱す兼業・二重就職に限って、懲戒処分の対象となる。
裏を返すと、上記に該当しない場合は、いくら就業規則に規定があったとしても、なかなかそれを理由として解雇等重い懲戒処分を課することは認められないということになります。
労働時間の算定
副業・兼業の場合、過重労働となってしまうことも懸念事項のひとつですが、その労働時間はどのように計算されるのでしょうか?
(労働基準法第38条第1項)
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
つまり、労働時間については、複数の会社で働いていたとしても、労働時間は通算して計算しなければいけないということになっています。
当然法定労働時間を超過した場合は割増賃金を支払う必要がでてくる訳ですが、一般的には、原則として労働契約を後に締結した会社が負うとされています。
今後副業・兼業の動きが加速・浸透してきた場合、「使用者は労働者が複数就業をしている事実を知らなければ、故意を欠くため法38条違反が成立しない」とされている行政解釈等も踏まえつつ、人事労務担当者としてしっかり対策していくことが必要となります。